kondoyukoのカルチュラル・ハッカーズ

踊る編集者が日々のとりとめもないことについて思索を広げる空間

「内省旅行」のススメ

某ボツ原稿です。いい加減ボツじゃなくなってほしい……。

「いやー、君の立てるプランは最高だよ」

昔、交際していた人からそう言われたことのある程度には、私は旅行の計画を立てるのが得意だ。

土日や3連休などで旅行に行くとなれば、公共交通機関や自転車、原付バイクなど、いかに安い手段で、たくさんの乗り物に乗ることができるかで移動手段を選び、一緒に行く人にあわせて、自分と相手が好きそうなスポットやグルメの名店などを見つくろい、時にはバックアッププランも用意し、分刻みのスケジュールで移動する、といった行動計画を立てていた。

例えば伊豆半島の原付バイク旅行。沼津で原付バイクを借り、珍スポットの伊豆極楽苑に訪問し、天城越えでおなじみの天城峠を超えて、滝が見える温泉に途中寄りながら下田にある宿に泊まる。そして西側の海岸線を走りながらまた沼津まで帰って原付バイクを返却するという行程。

はたまたあるときの広島旅行では、鞆の浦にある鞆の津ミュージアムに行き、尾道に滞在し、千光寺山のロープウェイから町並みや海の景色を眺める。そして翌日には自転車をレンタルして、尾道から大三島まで、しまなみ海道の約半分の距離を走ったのち、大三島からフェリーで大久野島に渡って野生のうさぎをもふもふと堪能し、その後は在来線で福山に移動し、美食を満喫してから帰るといったスケジュールだ。

数年前の私は、このように「いかに多くの体験をするか」に焦点をあてた旅行をすることが、好きだし得意だった。

あれから数年が経過し、当時の同行者と同い年くらいの年齢になってきた私は、当時を振り返って「こんな無茶な旅行によく付き合ってくれたな」と思う。

そう、たくさんの体験をしようとする旅行は大変疲れるのだ。

大人になってしまった私は、今年の年始、「内省旅行」と称した一人旅を敢行した。

「年始に作業をしたいので、どこかで一人合宿をしたい。楽しくていろんなところに行きたくなりすぎる場所はNGで、内省と作業を兼ねられたらいいけど最悪内省だけでもいい」

こんなことをふと考えて、思いついた場所は静岡駅周辺。ハンバーグの「さわやか」と、サウナの「しきじ」の存在しか知らない場所。そこさえ行ければ、あとはもう適当でいいと思った。

出発前日に3600円のビジネスホテルをシュッと取って、鈍行で4時間弱。ずっとJRじゃなくて新宿〜小田原間を小田急に乗ったほうが安いなんて何らかのバグなんじゃないかと思うなど。往復の電車賃とホテル代は合計約9000円だ。

「無理をしない」「いろいろ行かない」「美食を追求しない」といったないないばかりを追求するつもりの1泊2日の静岡一人旅は、実際には静岡は想像以上にしみじみ楽しめたので、作業が捗ったといえばそうではないが、疲れずに自分をふりかえることのできる内省の環境としては、とてもとてもよかった。

静岡についた私は、まず新静岡セノバ店に向かい、さわやかハンバーグの発券をした。入店までかなり並ぶとの前評判だったが、この日は200分待ちだった。

「これも想定内」と、腹ごしらえに向かったのはフードコート内のうどん屋。通常なら、その場でモーニングの場所を調べてできるだけ名店に行こうとするが、調べるのも疲れるし、地元の名店に一人で入るのも勇気が必要。これも、内省旅行ならではの行動選択だと思う。

腹ごしらえを終えた私は、まだ入店までたっぷり時間があるので、近くの浅間神社に初詣に向かった。のんびり自然を堪能し、戻ろうとすると、参道で売っていた地元のクラフトビール「AOI Brewing」に目が留まり、飲みながら歩くことに。これがなんとも自由で楽しい。

静岡に来たことをSNSに書くと、地元をよく知る人からコメントで静岡のおすすめのおでん屋や飲み屋も紹介していただけるのだけど、別におでんは好物ではないし、なんだかどうも行く気が起きない。自分は、知らないお店に行くのはなかなかのストレスだということに気づいた。

一人で知らない飲み屋に入るのは相当嫌で、テイクアウトして飲み歩くのは相当楽しく感じる。

「自分を疲れさせないぞ」と思うだけで、自分が心地よく感じる行動選択が分かるようになる。

そうして200分時間をつぶし、ようやくありつけたさわやかハンバーグ。食べてみた感想は、「意外と普通……?」と思いながらも、翌日も食べに行った程度には、すっかりハマってしまった。

そして、サウナしきじである。サウナー(サウナ愛好家)の聖地だなんて言われているが、そんなふうに言われると通好みの過酷な環境を想像し、ぶっちゃけあまり期待していなかった。

だが、とてもいいのである。

熱すぎないサウナの温度が。汗がドバドバ出る湿度が。

そして、天然水の水風呂が。

「このお水は飲めます!」

と自信満々に謳う掲示を確認し、ドバドバと出る水をすくって飲むと、体内の水分と水風呂の水が融合するような気持ちを覚えた。

当初は、2日目は熱海あたりをふらりと巡って帰ろうという予定だったのが、さわやかとしきじにどうしても行きたくなってしまい、翌日も行くことに。そして静岡駅から2駅離れた用宗という漁港にある、用宗みなと温泉に行って海を眺めながら露天風呂に入り、そこに併設されているクラフトビールの醸造所「West Coast Brewing」でビールを楽しんだのである。

予想以上に楽しんだ2日間だったが、結局「さわやか→自然→ビール→しきじ」のお気に入りのセットを繰り返しているだけだ。

よくサウナでは、深くリラックスする状態の、いわゆる「ととのう」を実現するために「サウナ→水風呂→休憩」のセットを繰り返す入り方をするが、内省旅行とは、サウナのように自分を心地よくするものばかりを繰り返すような旅行のあり方なのかもしれない。

内省ができたかというと、実際できた。昔の自分を振り返ったり、旅行で心地よくなっている自分の感情に向き合ったりして、旅行中に5本のブログエントリが生まれたほどである。

かつての多くの体験を求めた旅行と、今の内省旅行。

全然違うように見えて、今も昔も変わらず。より思考が豊かになって到達したい境地に行けるかで、私は行動選択しているんだと思う。

昔はいろいろ行くことでそうしていたし、今は内省を通じてそうしてる。